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最高裁判所第二小法廷 昭和40年(オ)1206号 判決 1968年11月01日

上告人

株式会社関口本店

右代表者清算人

関口繁雄

代理人

後藤三郎

被上告人

関口ハナ

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人武田蔵之助、同横田長次郎各名義、同後藤三郎の上告理由第一点について。

所論は、関口繁雄は、上告会社を代表する権限を裁判所に対し対抗できないから、本訴は訴訟要件を欠くもので不適法である旨主張する。

しかし、関口繁雄を上告会社の代表者である清算人に選任した本件乙総会の決議は、右決議の取消しを求める被上告人の本訴を認容する判決が確定するまでは有効に存在するのであり、右決議が有効に存在するかぎり、関口繁雄は、上告会社の清算人の地位、資格を有するものと解すべきである。そして、商法四三〇条一項、一二三条は、株式会社の清算人の氏名および住所を登記事項とし、同法一二条は、右登記事項は登記の後でなければ善意の第三者に対抗できない旨規定しているが、これらは、会社と実体法上の取引関係に立つ第三者を保護するため、株式会社の清算人が誰であるかについて、登記をもつて対抗要件としているものであり、それ自体実体法上の取引行為でない民事訴訟において、誰が当事者である会社を代表する権限を有する者であるかを定めるに当つては、右商法一二条の適用はないと解するのが相当である(昭和四〇年(オ)第八六〇号、同四一年九月三〇日第二小法廷判決、民集二〇巻七号一五二三頁参照)。したがつて、関口繁雄の清算人の選任登記が経由されていないこと、他に選任登記を経た清算人が存在することは、関口繁雄を上告会社の清算人であると認めることを妨げるものではないというべきである。所論は、独自の見解に立つて、原判決を非難するものであつて、採用できない。

同第二点について。

原審が適法に確定したところによれば、上告会社は、その設立以来株券を発行したことはないというのであるから、所論上告人の主張は、株券の発行を停止条件とする株式の譲渡の効力いかんを論ずるまでもなく、理由がない。論旨は採ることができない。

同第三点について。

所論は、議決権行使の代理人を株主にかぎる旨の定款の規定は、商法二三九条三項に違反して無効である旨主張する。

しかし、同条項は、議決権を行使する代理人の資格を制限すべき合理的な理由がある場合に、定款の規定により、相当と認められる程度の制限を加えることまでも禁止したものとは解されず、右代理人は株主にかぎる旨の所論上告会社の定款の規定は、株主総会が、株主以外の第三者によつて攪乱されることを防止し、会社の利益を保護する趣旨にでたものと認められ、合理的な理由による相当程度の制限ということができるから、右商法二三九条三項に反することなく、有効であると解するのが相当である。論旨は、右と異なる見解に立つて、原審の判断を攻撃するものであつて採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外 色川幸太郎)

上告代理人武田蔵久助、同横田長次郎、同後藤三郎の上告理由

第一点 原審は、当事者の一方の代表者を誤り、訴訟代理につき必要な要件を具備しない者が代表者とされているので、破棄せらるべきである。

一、上告人会社の代表者と表示されている清算人関口繁雄は、被上告人が本訴において取消を求めているところの無効となるべき株主総会決議によつて選任され、かつ清算人選任登記も了していない者であり、従つてその代表権を第三者に対抗し得ず、従つて又その訴訟行為も上告人会社の行為であることを裁判所にも対抗し得ない者である。

二、この点に関しては、上告人が既に原審で縷縷述べたところであるが、原判決はこれに対し、(一)株主総会決議取消の訴は判決確定までは、なお有効に存在するから、関口繁雄は代表者たる清算人の地位資格を有している。(二)又控訴人は右関口繁雄は清算人選任登記を経ていないので、代表資格はない旨主張するが、商法上商業登記の効力は善意の第三者に対抗し得ないというにとどまり、第三者たる被上告人の方から代表者と主張することは少しも差支えない。(三)既に登記された代表者関口愛子は存在するが、右者をもつて代表せしめ、なれ合い的訴訟をさせるよりも利害の相対立する関口繁雄を代表者となし、同人をして訴訟を担当させる方がはるかに現行民事訴訟の目的にかなうものであると断じている。

三、しかしながら、前記判示の(一)について、たしかに関口繁雄の選任は、決議取消判決確定までは有効であるとしても、選任登記を経ていない限りそれは社団内部においての効力であり、善意の第三者に対抗できないのであるから、唯選任の有効性から直ちに本訴における会社代表者として適法だということにはならない。

又(二)については、上告人が原審において詳述した趣旨は、登記がないから代表資格がないというのではなく、対抗要件を備えない者は本訴において代表者として扱うのは不適法だと主張したのであるが、その点はさておき、原告たる第三者の方から代表者と主張することは差支えないとしても、果して原告が任意に右の者を本訴のような株主総会決議訴訟の被告たる会社の代表者として定めうるやは問題である。この点については後述する。

更に(三)については、関口愛子とではなれ合訴訟になり、関口繁雄とならば真に利害対立するから適当だというのであるが、本件訴訟においては、たしかにそういう結果になつたかも知れないが、一般論としてはそのように断定できないと思う。何故ならば、適法に選任され登記を経た代表者がいて、別途かしある総会決議において又別の代表者が追加選任されたとしても、その適法な代表者が必ずや右総会決議を争う立場にありうるとは限らないし、又原告が必ずしも本件の如く紛争ある代表者と争う反対派とも限らず、却つて、繁雄派の株主が原告となり、繁雄となれ合い訴訟をすることだつて理くつの上では大いにあり得るからである。

従つて原判決のいうところは、必ずしも一般論として成立し難く、上告人はこれを承服し得ないのである。

四、上告人は、本件訴訟においては、被告たる会社の代表者は、あくまで商業登記を経た者でなければならないと信ずる。

本来商法第二四七条の株主総会決議取消の訴は、同法第二五二条の決議無効確認の訴と並んで、商法が特に株式会社に認めた特別の訴であり、従つてその被告たるべきものは株主総会を機関とする当該会社であるとされているが、その判決の効力については、商法が特に定めており、その決議の有効無効は単に当事者たる株主若しくは取締役と会社との間のみならず、他の株主の外ひろく利害関係を有する第三者に対しても、画一的かつ対世的に確定することとされている。

そうすると、このような訴訟において、果して原判決が述べる如く、第三者の側より未だ選任登記を経ていない清算人の代表権を認めうるからといつて、特定の原告――被上告人が関口繁雄の代表権を認めただけでこと足れりとなしうるであろうか。

法律上善意の第三者たる他の株主そのほかひろく利害関係人は(仮りに東京高裁昭二八・六・二九判決のように、株主は第三者にあらずとするも利害関係人は残ろう)少くとも、関口繁雄の代表権、従つて又同人のなす訴訟行為が会社の行為であることを否認しうるのである。しかるに、かかる関口繁雄がなした訴訟行為による本件訴訟の判決の効力――拘束力をその第三者がうけねばならないのはどのような法理によるものであろうか。

上告人が到底原判決の述べるところに承服しかねる所以である。<以下省略>

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